日本ファンタジー大賞受賞作である畠中めぐみ著『しゃばけ』(新潮社)とその続巻である、しゃばけシリーズ。舞台は江戸。身体がめっぽう弱い廻船問屋のおぼっちゃまである若だんなと若だんなを何より大切にする妖(あやかし)達が協力して謎を解決する、時代ものファンタジーです。しゃばけシリーズの魅力は何と言っても、憎めない愛すべき妖達です。そして、身体は弱いけれど、頭脳明晰な若だんなの名推理もみどころで、ある意味、推理小説としても楽しめます。

筆者も大好きなしゃばけシリーズですが、購入する際に一つ難点が。書籍にシリーズ何作目かが書かれていないのです。それぞれが完結しているので、バラバラでも十分楽しめますが、やはり、前作のエピソードが引用されている部分も多いので、刊行順に読みたいものですよね。以下では、しゃばけシリーズを刊行順にご紹介します。ちなみに、関連した絵本なども出版されていますが、今回は小説のみご紹介させていただきます。

①しゃばけ(2001年)②ぬしさまへ(2003年)③ねこのばば(2004年)④おまけのこ(2005年)⑤うそうそ(2006年)⑥ちんぷんかん(2007年)⑦いっちばん(2008年)⑧ころころろ(2009年)⑨ゆんでめで(2010年)⑩やなりいなり(2011年)⑪ひなこまち(2012年)⑫たぶんねこ(2013年)⑬すえずえ(2014年)以上すべて、新潮社から出版されています。

映画化もされたあのしゃばけシリーズ第一弾・しゃばけ (畠中 恵)

滅法、体が弱くてしじゅう寝込んでいる、回船問屋長崎屋の若だんな、一太郎。一太郎を甘やかし放題で過保護な両親や手代たちの目をかいくぐり、腹違いの兄、松之助に会いに行くも会えずに帰る道すがら、人殺しの現場を見てしまってから周囲で薬種問屋殺しが連続して起きるようになります。下手人は捕まっても、殺しはおさまりません。さては、人ではなく妖の仕業か。若だんなと妖たちが解き明かす、事件の真実とは?…今や、続々と新しい物語が生まれている感のある、しゃばけですが、作者は当初、この作品を続けて書くつもりはなかったといいます。その証拠に、若だんなの出生の秘密についてもこの作品の中で語られております。もし、作者が続けて書くつもりならば、わざと匂わせる程度に書いておき、今後の作品の中でタイミングを見計らってカミングアウトさせと思われますが、いかがでしょう。今や新しいジャンルを築いた、このしゃばけシリーズ。それまでにない内容の物語なだけに、書店での扱いは店により異なっていたそうです。ミステリー作品として扱われたり、歴史小説とカテゴライズされてみたり。一編だけで終わりにするには惜しい、若だんなをとりまく妖たちに、兄や、人たち。彼らと長くお付き合いできるきっかけとなった、しゃばけシリーズ一話目。途中、妖に操られて人生を踏み違えてしまい、周りの人たちを悲しませる人も複数登場し、決して楽しいばかりのお話ではありませんが、普段の生活では体験できない妖たちの世界に、しばし心を触れさせてみてはいかがでしょうか。

しゃばけシリーズ第二弾・ぬしさまへ (畠中 恵)

しゃばけシリーズ第二弾の本編です。若だんなをはじめ若だんなの周囲の人間(?)をめぐる事件に今日も若だんなの推理が冴えます。「ぬしさまへ」若旦那の手代仁吉は色男で、付け文が後を絶ちません。そんな仁吉に付け文を渡したお店の娘がある日死体となって川から浮かびました。娘はなぜ死んだのか?若旦那の推理が明かした真実は、思いもよらぬものでした。「栄吉の菓子」若旦那の幼馴染み、栄吉は菓子屋の跡取り息子ながら美味い菓子が作れません。そんな栄吉の作った饅頭を食べた老人が死んだため、栄吉に殺しの疑いがかけられました。ほどなく栄吉の疑いは晴れたものの、では、老人は、誰に殺されたのでしょう。若旦那の導いた意外な真相とは?「空のビードロ」松之助は、若旦那の父が妾に生ませた息子で、長崎屋とは縁を切られて奉公に出ています。松之助の働くお店でたて続けに無残に殺された猫の死骸が発見され、ほどなく真犯人も判明し、一件落着したかに思えました。が、松之助は猫殺しにからめられた思惑を知ってしまい、猫殺しから預かった毒薬で自らも人を殺めることをふと考えてしまいます…「四布の布団」長崎屋が病弱な若旦那のためにあつらえた新しい布団。そこからは、女の泣き声がきこえてくるのでした。布団屋に布団について問いただしにおもむいた若旦那と手代、そして妖たちがみつけた真実と、事の顛末はいかに?「仁吉の思い人」いつものように寝込んでしまい、手代に薬をすすめられる若だんな。見るからに強烈な丸薬と水薬の両方を飲めたら仁吉の失恋話を聞かせようという佐助の誘いにのって見事に両方とも飲んだ若だんなに、「自分で話す」と口を開いた仁吉。若だんなの予想外の仁吉の想い人、そして長い時を経て繰り返される恋物語の結末は?「虹を見し事」何やら周囲の様子がおかしい。手代は別人のように若だんなに接するし、妖たちも屋敷の中をうろうろしていません。何かがおかしい。注意してまわりを見渡し、いろいろ試してみて周りで微妙に奇妙なことが続き、自分が誰かの夢の中にいると気づく若だんな。果たして夢の主は誰なのでしょうか。奇妙な出来事の真相やいかに?

しゃばけシリーズ第三弾・ねこのばば (畠中 恵)

大切な人を守りたいと願う人の切ない思いと、それをあざわらうかのような酷い現実が交差する、作品が並ぶ一冊。後味のよくない話もありますが、人ってなんだろうと考えさせられます。「茶巾たまご」なぜか元気な若だんな。大むら屋にいられなくなった金次をひろってから調子がいいのです。が、しかし大むら屋の娘が亡くなったものだからさあ大変。知らせを持ち込んだ
岡っ引きの親分と妖たちと一緒に若だんなが真犯人探しにのりだします。「花かんざし」外出先で迷い子になったおりんに鳴家をつかまえられてしまい、仕方なく長崎屋でしばらく預かることになりました。身元を調べるうちにおりんがつぶやいたひと言、帰ったら殺されるの言葉を裏付けるかのようにおりんの乳母が殺されたことをきっかけに、妖たちの手を借りて若だんなの謎ときがはじまります。「ねこのばば」大事にしていた桃色の雲をなくして落ちこんでいる若だんなのもとへ猫のおしろが広徳寺に送られた猫を助けてほしいと頼みに来ました。 猫をもらい受けに行った若だんなたちは、広徳寺で起きている問題の解決に協することになります。「産土」遠い昔、佐助が若だんなと出会う前の想い出話。店がしだいに傾いていき、店の主人が奇妙な亡くなり方をする怪現象が周囲で立て続けに起こります。やがて、佐助の店でも奇妙なことが起こりはじめ…「たまやたまや」幼なじみのお春の結婚話を栄吉から知らされ、相手の庄蔵の周辺を調べていくうちに庄蔵とともに武士集団に拉致されてしまった若だんな。なぜ彼らは庄蔵を狙ったのでしょうか。また、お春が若だんなにもらったという煙管はどこに?

しゃばけシリーズ第四弾・おまけのこ (畠中 恵)

結果としては未遂に終わる悪事、悪とは言わないまでも人に言えない心の中にある思いに光をあてて解決に至る、といった内容のお話が続きます。気持ちはわからなくもない、けれど、そうしたらあなたはよくても他の人はどうなるの?そんな問いかけをしたくなる結末です。誰にでもありそうな心の闇。若だんなや妖たちと一緒に解き明かしてみてはいかがでしょう。「こわい」栄吉とひどいけんかをして落ち込んでいる若だんなのもとに現れた妖、狐者異。飲めば技が上達するという薬を持っているといいます。しかし、若だんなが返事をする前に植木屋の職人と岡っ引きの親分、左官屋がそれぞれ薬を欲しいと言い出し、狐者異に言われるままに流れ者を荒れ寺から追い出そうとして…「畳紙」すさまじい厚化粧と周囲でも評判の娘、紅白粉問屋一色屋のお雛。最近、厚化粧をやめたいと思うようになりましたが、どうしたらやめたいられるかがわかりません。そんな折、長崎屋で拾った印籠を返してもらおうとしてやってきた屏風のぞきに悩みをうちあけます。「動く影」若だんなが幼なじみの栄吉と仲良くなるきっかけとなった影女事件のお話。妖と人の思いがからんで起きた事件を若だんなを含む子供たちが解き明かします。「ありんすこく」ある日若だんなが兄や二人に吉原の禿を連れて足抜けすると言いだします。何かがあるとにらんだ兄やたち。事の経緯を知り、禿を足抜けさせようとしてみたら、思わぬ邪魔が入ってしまい…「おまけのこ」長崎屋の中庭で悲鳴が響きわたります。櫛職人の八介が天城屋から預かった玉を奪われたのです。犯人は、店に来ていた客の中にいる!玉と一緒に消えた鳴家はどこへ?

しゃばけシリーズ第五弾・うそうそ (畠中 恵)

母・おたえの思いつきがきっかけで、箱根へ湯治に向かうことになった若だんな。手代の仁吉と佐助、松之助がお供することになっていたが、途中、手代たちが姿を見せないまま旅を続けることになってしまいます。道中で出会った雲助・新龍の駕籠に乗せられ、なぜか武士二人組にさらわれ、天狗に襲われ、負傷した武士の手当てをしたり、山で出会った女の子にはなぜか嫌われたり、次々に起こる出来事にふりまわされる若だんなでしたが、武士に天狗、村人たちがそれぞれ若だんなをつかまえようとする中で、山神様の娘、お比女に自分を嫌う理由を尋ね、それをきっかけにこんがらがった事態をおさめるすべを探りはじめます。…短編の物語が多い、しゃばけシリーズには珍しく、一冊まるまる一話完結になっています。道中出会った雲助の新龍に勝之進、山神様の娘、お比女に、お比女のお守り役の天狗の蒼天坊。それぞれの思惑や思いがからみあって、山を揺さぶる地震も交えながら物語はダイナミックに展開していきます。明らかに物語の軸となっているのは、山神様の娘、お比女の心の成長。遠い昔に味わった極限の死の恐怖、自分たちさえ良ければと切り捨てられ、人を信じられなくなった過去の記憶。姫神となり、能力があるにもかかわらず、自分で自分を認めることができず、自分のことを役立たずと思い込み、悩み続ける彼女が若だんなたちに出会って、少しずつ心を開き、自分からできるかできないかではなくやってみようと肚を据える過程は、当初の彼女が別人のように勢いがあり、物語に臨場感を持たせています。また、お比女の思いは、主人公の若だんなにも通ずる思いとなり、お比女の心の移り変わりは若だんな自身の気づきにもつながってゆくさまが最後の大団円へと渡されていくのが強く感じられる作品です。

しゃばけシリーズ第六弾・ちんぷんかんぷん (畠中 恵)

「鬼と小鬼」近くの火事の煙を吸って倒れた若だんなは、そのまま賽の河原に行ってしまい、そこで威勢のいい少年、冬吉と出会います。若だんなが怪我が原因で死んだ青信という医師に三途の川を渡る代金を渡しているのを見た他の人たちによって財布は奪われ、若だんなのお金はほとんどなくなってしまいました。お金のお礼にと死者たちは何か口々に若だんなに向け叫びながら川を渡って行きます。若だんなのお金を目当てに、末松と惣助もやってきて、若だんなは二人に他の子たちにも声をかけて一緒に渡ろうと言いますが、はずみでついてきてしまった妖をまずもとの世界に戻そうと、賽の河原を後にしようとする若だんなと冬吉のうしろには逃げようとしている者がいる、と鬼に聞こえるように喚く末松の姿がありました。「ちんぷんかん」広徳寺に坊主として修行に入った秋英。寺の前に行くと、そこで何やらとんでもなく大きな犬が歩いているのに出会いとまどっていると、それを見かけた僧が手を引いて中に入れてくれます。寺に入ってすぐ、秋英は妖退治で名高いその僧、寛朝の弟子にされてしまいました。入ったばかりの秋英の抜擢は、他の僧たちの反感を招き、かんじんの寛朝はといえば、身の回りの用事ばかりおしつけて、特別な修行などなにもありません。全く自信のないまま日々を送る秋英に、寛朝は自分の代わりにお客から相談を受けるよう告げるのでした。「男ぶり」長崎屋のおかみ、おたえと主、藤兵衛のなれそめのお話です。若い頃からその美しさが評判のおたえにはあまたの縁談がひきもきらずやってきます。しかし、おたえには人には言えない事情があり、舞い込む縁談を断り続けるよりほかありませんでした。そんな中、おたえがこの人ならと思えた相手、それは煙草屋の次男坊の辰二郎でした。思い思われて縁づきたいおたえの願いとはうらはらに、何かとおたえに対抗意識を燃やす八百屋のお香奈の横やり、辰二郎の親戚宅の奇妙な出来事の謎ときなど、障害が次々と現れます。おたえは辰二郎との将来のため、謎ときに挑みますが…
「今昔」火事の後に、生きかえった若だんな。いつものように妖たちと過ごしていると、いきなり顔を白いものにふさがれてしまいます。ちょうどやってきた貧乏神の金次により、白いものは式神と判明します。早速、妖たちが式神をよこした場所をつきとめたところ、なんとそれは兄・松之助の縁談の相手、玉乃屋でした。「はるがいくよ」長崎屋の若だんなの住む離れにやってきた、赤ん坊は桜の花びらの妖でした。若だんなによって小紅と名づけられた妖はみるみるうちに成長し、かわいらしい娘へと姿を変えていきます。一緒に過ごす日々がずっと続くことを願う小紅と若だんな。けれど、別れの時はすぐそこまで来ていました…

しゃばけシリーズ第七弾・いっちばん (畠中 恵)

「いっちばん」最近、元気のない若だんな。その原因は、離れによくやって来る、日限の親分がスリの犯人と目星がついている人間を証拠がないためつかまえられないことにありました。若だんなを慰めようと話をしはじめた妖たちは、いつものごとく、誰が一番若だんなの喜ぶ贈り物を用意できるか競いあうことにしてしまいます。「いっぷく」最近、商いの競い合いをすることになった長崎屋。大事な時期だから自分も何かしたいという若だんなが兄や二人の手をすり抜けて店に出てみると、そこには競争相手の西岡屋と小乃屋の姿がありました。後日、単独で訪ねてきた小乃屋の七之助は、競い合いの評価をする顧客の名を書いた書き付けを若だんなに渡します。「天狗の使い魔」寝ているところを天狗にさらわれてしまった若だんな。なぜさらわれたのか天狗に尋ねると、親しくしていた山伏の使い魔である菅狐を自分のそばにおきたいのに、王子の狐にも皮衣殿にもできないと断られ、腹が立って若だんなをさらったと言います。さらわれた若だんなを連れている天狗の行く先には若だんなを手に入れようとする狛犬が待ち伏せしていて、鳴家をさらって逃げてしまいます。「餡子は甘いか」菓子屋の跡取りなのに、菓子作りの上達しない栄吉は、安野屋で修行することになり、毎日忙しく働いています。ある日、砂糖を盗みに入った八助を捕まえて店主はじめ店の者がいる前に引きだしましたが、八助はその場でうまく取り入って、栄吉の弟弟子として安野屋で働きはじめてしまいます。要領よく仕事をこなす八助は、栄吉に比べ、真面目に働いていないのに大事な仕事を抱えて忙しい安野屋で菓子を作ることができ自分はその中から外されてしまったことから栄吉は菓子作りを辞めると決心します。「ひなのちよがみ」ある日、可愛らしい娘が若だんなを訪ねてきました。若だんなにお見合いか?とわきたつ長崎屋。しかし、娘はお見合い相手ではなく、以前は厚塗りの化粧をしていたお雛でした。火事で焼けてしまった店を立て直すために考えた商売について相談にきたといいます。そこで若だんなは、知り合いの錦絵屋を紹介しましたが、それがあだとなってしまいます…

しゃばけシリーズ第八弾・ころころろ (畠中 恵)

「はじめての」若だんなが十二の頃のお話です。ある日、長崎屋の離れに日限の親分が若い娘を連れてやってきました。娘の名はお沙衣。母親のおたつが目を患い、診てもらった医者から「目を患うのは品陀和気命の機嫌を損ねたから。焼け落ちてしまった社を土地のもので建て、七宝を納めればよい」と言われて七宝を納めたいと言い出したのです。そのために娘の縁談相手に七宝を結納の品として納めるよう条件として求めているといいます。母親の気持ちも考え、縁談は無下にはできないけれど自分でなんとか七宝を集めるというお沙衣。行きがかり上、七宝集めとおたつの目を診た医者についてわかりだんなとアニメやたちはかかわっていくことになります。「ほねぬすびと」長崎屋で一大事発生。なんと、若だんなの目が見えなくなってしまいました。そんな最中、長崎屋の店でも大事件発生。お武家さまから依頼されて運ぶことになっていた贈答品の干物が容れ物の竹籠を残して消えてしまったのです。荷物を約束通りに運ぶことができなかった長崎屋に、お武家さまから消えてしまった干物について話があると訪ねてきます。話し合いの場に立ち会った、若だんなのだした結論は、いかに。「ころころろ」目が見えなくなってしまった若だんなの目が見えるようにと、河童を探し歩く仁吉。河童はなかなか見つからず、なぜか仁吉のそばにはたすけてほしいと願う妖たちが集まってきてしまいます…「けじあり」佐助は妻のおたきとともに、神田の表通りから道一本入った所で小間物を扱う店をかまえています。夫婦二人でつましく仲良く暮らしていますが、最近、妙なことが続いています。「けじあり」と書かれた紙が毎日一枚見つかるのです。最初は気にしなかった佐助ですが、そのうちだんだん気になりだして…「物語のつづき」上野の広徳寺で、生目神さまと若だんな、それに妖たちが集まっています。生目神さまにかかわったことが原因で目の光を失ってしまった若だんなに、生目神さまは物語の続きを言い当てたなら目の光を取り戻そうと言います。

しゃばけシリーズ第九弾・ゆんでめて (畠中 恵)

不思議な世界の広がる、一冊。本当なら体験するはずのなかったことを体験する左の道。本来、これから体験することになっている右の道。もしも、違う道に間違えて進んでいたらどんなことが起きてくるのか…今回はそれらの出来事をさかのぼり、話が進んでいきます。最後の「始まりの日」で、若だんなは本来歩くところに戻って、そこから予定されている日々が始まります。
途中に語られるのは、本来出会うはずのない人と会う話、出来事です。タイトルのゆんでは弓手と書き、左の道を意味します。
対してめては馬手と書き、右の道を意味します。「ゆんでめて」久しぶりに外出することになった若だんな。兄の松之助に子供ができたというのでお祝いを持っていくことにしたのです。道中にはいつものごとく、若だんなを案じてやまない兄やの仁吉と佐助がお供して。賑わうまちを散策するうち、若だんなは本来ならば、ゆんでの道、つまり左に進むところまでたどりついていましたが、そこで人ならぬ身の存在の方に出会ってしまい、はずみで反対側の馬手、つまり右側に進んでしまいます。そこから、本来なら体験するはずのないことを体験し、会うはずのない人に出会って四年後の若だんなの日常が今回のお話となっています。四年後の若だんなのそばには今までそばにいた妖の一人、屏風のぞきがいません。四年前のあの日、本当は早く帰宅するはずだったのに、途中で巻き込まれた事のため帰りが遅くなり、火事に遭った長崎屋から屏風のぞきや茶碗の付喪神を救えなかったのです。屏風のぞきの住処であった屏風は名人に修理してもらいましたが、屏風のぞきがそこに戻ることはありませんでした。四年たった今でも若だんなは屏風のぞきの行方を探し続け、迷子を探し出したということで最近評判の事触れに屏風のぞきを探してもらうことを思い立ちます。「こいやこい」松之助の子供が三つになり、長崎屋が火事にまきこまれ付喪神の屏風のぞきの屏風が壊れてから三年。何度直しに出しても、元のようにならなくて困っていた若だんなに、友人で小乃屋の七之助が上方帰りの表具師を紹介してくれました。お礼を言う若だんなに、いつも陽気で調子のいい七之助が「実は自分にも相談にのってほしいことが」と切り出します。その相談ごとというのが、にわかに許嫁となった幼馴染みの千里のことでした。上方から上京してしばらく滞在するので、その折に自分を見つけてほしいと言ってきているというのです。幼いころの顔しか覚えていない千里を見つける手立てを考えてほしいと困りはてる七之助にいきがかり上、若だんなは協力することになってしまいました。「花の下にて合戦したる」長崎屋の離れが火事にまきこまれてから二年の月日が流れました。若だんなのもとに、庭に生えた桜の花びらの妖が訪れます。命短い花びらの童女たちに花見を楽しませてあげようと、若だんなは兄やたちに花見に行きたいと言い出しました。花びらだけでなく妖たちもこぞって花見に行くこととなり、若だんなの母、おたえを守っている守狐の提案もあり、王子稲荷に近い飛鳥山にいくことに。たくさんの美味しいお弁当に玉子焼きを携えて、若だんなは友人の七之助に冬吉、妖たちと行くつもりでしたが、なぜか途中で広徳寺の寛朝に真面目な弟子の道真、なぜか日限の親分に狸の妖の六右衛門、数多の狐、天狗の六鬼坊、栄吉と大勢で繰り出すはめに。宴は大いにもりあがり、やがて狐と狸がそれぞれの面目を賭けて化け比べを始めてしまい、さらに宴は続くのでした。「雨の日の客」長崎屋が火事にまきこまれて屏風のぞきたちが大変な思いをしてから一年後。
お江戸では雨の日がずっと続いておりました。若だんなが長わずらいで寝込み続けているのを心配して付喪神の一人、鈴彦姫は
若だんなの本復を願って百度参りをしていたのですが、折しもの大雨の中、複数の男たちに囲まれて困っているところ、背の高い綺麗な女性に助けられ、長崎屋に戻ります。乾いた着物を若だんなから借りて身につけたその女性は、三日ほど前に川の岸辺で目を覚ましたものの、自分が誰かわからないと語ります。「始まりの日」兄の松之助に子供が生まれたお祝いに、兄の店に向かう若だんなと兄やたち。最初に行くはずだった左の道へと足を踏み出します。その時、なぜか何かおかしいような気がしたのですが、かまわず左の方へと進みました。そのまま何もなければまっすぐに兄の店にたどりつけたはずでした。しかし、若だんなは後ろから走ってきた四十男にぶつかってこられたのをきっかけに騒ぎにまきこまれてしまうのでした。

しゃばけシリーズ第十弾・やなりいなり (畠中 恵)

恋愛の甘酸っぱい思いがひきおこした騒動を描いた「こいしくて」、かけがえのない親友との絆について考えさせられる「あましょう」など、今回は若だんなのお話ではなく長崎屋にやってきた人、若だんなが赴いた先で出会った人の話で構成されています。ユーモラスな妖たち、読み終わった後も心地よい感動の残る作品の多いしゃばけシリーズだが、今回は、最初ばたばた、後でしんみり…させられること間違いなしのお話揃い。各作品冒頭に、作品の内容にちなんだ料理の調理法が一品ずつそえられているのも、興味深いです。「こいしくて」長崎屋周辺の通町では、最近、妙な病が流行っています。恋の病が流行ってしまっては我らの出番がない、なんとかしてくれと禍津日神をはじめとする疫神五人が長崎屋にやってきました。町中では意中の人を取り合う男女や、さまざまな神様が入り乱れて、てんやわんやの大騒ぎ。通町近くの京橋を守る橋姫もいません。そんな中で若だんなの導き出した真実は…「やなりいなり」長崎屋のおかみ、おたえを守る守狐たちが、病で寝込む若だんなのためにと、たくさんのやなりいなりを作って離れにやってきました。いつものごとく、ごちそうに手をのばす妖たちにまじって、見なれない手が。それは、知らないうちに幽霊になってしまった男のものでした。しばらく幽霊のまま長崎屋にとどまりたいという男の願いを受け入れ、若だんなは幽霊を滞在させ、妖たちに行き倒れた者を調べてもらうことにします。「からかみなり」取引の品を荷受けに行った長崎屋の主、藤兵衛が行方不明に。藤兵衛はなぜ戻ってこないのか。妖たちが好き勝手に憶測を語りますが、答えは出ません。藤兵衛がいなくなった日にさかのぼり、考えてみようとした若だんなにひらめいた答えとは。「長崎屋のたまご」
ある日の夕暮れ時、空を見上げていた若だんなの住む、長崎屋の離れに空から青い玉が落ちてきました。物知りの兄や、仁吉にきいてみようと席を外したすきに、鳴家たちが触って喧嘩をしだしたはずみで、どこかにはねていってしまいます。あわてた鳴家たちは後を追いかけ、後に残された若だんなたちはたまごを探しているという客人の訪問を受けます。「あましょう」幼なじみの栄吉と話がしたくなった若だんな。友の好物の豆腐の味噌田楽をたずさえて安野屋を訪れましたが、安野屋は忙しく、菓子も売り切れているものが多く、栄吉も若だんなと話をする余裕がありません。菓子を買い占める勢いの浜村屋の新六は、安野屋の店内で友の五一に難癖つけてからんでいきます。大量の菓子を浜村屋に配達に行くことになった栄吉について行った若だんなは、浜村屋で新六と五一の喧嘩にまきこまれてしまいます。

しゃばけシリーズ第十一弾・ひなこまち (畠中 恵)

今回は、若だんなのもとに届いた一つの木札が最初のきっかけで若だんなが助けを求めてくる人の力になり、問題を解決するという構成になっています。「ろくでなしの船箪笥」最初に訪ねてきたのは、小乃屋の七之助。祖父から形見としていただいた船箪笥を譲り受けることになったのですが、それを面白く思わない伯父とその妻の兄、叶屋の横やりが入り、箪笥の中を確認することに。しかし、箪笥の引き出しが開かなくなってしまったからさあ大変。引き出しが開けられるまで叶屋の江戸店に預かり、叶やの大番頭たちの前で引き出しの中を確かめることができたら引き渡すということになりましたが、預かってすぐに叶屋から早く船箪笥を開け、引取ってほしい、できないのなら箪笥は上方の伯父に返すといってきたのだそうです。わけを尋ねると、箪笥が来てからというもの、店で気味の悪いことが起きるようになったとのこと。箪笥を開けるのに若だんなと妖の力を借りたいという七之助に、力になれないと伝えた若だんな。箪笥のからくりは七之助に任せて、自分は叶屋で箪笥が引き起こした怪事を探ることにします。「ばくのふだ」ここのところ流行りの落語が聞きたい、と兄やたちや妖たちと寄席にくりだした若だんな。
さっそく聞いた落語は迫力満点、とてもこわかったのですが、その時さらに怖かったのは客にまじっていた頭巾をかぶった武家が落語を語る噺家に切りつけたのです。話も途中で若だんなたちは逃げ帰ることになりました。その翌日から、若だんなの周囲では悪夢に悩まされる人が出はじめたため、心配した兄やたちが妖退治で有名な広徳寺の高僧、寛朝へ使いをだし、悪夢払いのお札をお願いしたところ、なんと寛朝自身が長崎屋に出向いてきました。悪夢払いの札に描かれた貘が札から逃げてしまったので、捕まえるのを手伝ってほしいと言うのです。逃げた貘を捕まえてみると、なんとそこには、若だんなたちに落語を語っていた噺家がおりました。「ひなこまち」浅草にある人形問屋平賀屋が、美しい娘を一人、雛小町に選び、その面を手本にしてある大名家に納める立派な雛人形を作り、納めに行く時には手本にした娘も同行させて殿様に挨拶に伺うことになりました。巷の娘たちはもちろん、その親たちも、玉の輿を狙って大騒ぎ。少しでも美しく見せたいがために娘のために古着を買い求める人、飛び交う古着であふれかえっています。そんな中、長崎屋の離れに忍び込んだ者がおりました。一度は逃げたものの、捕まえられたその者は…古着を商う太吉のむすめ、於しなでした。「さくらがり」今年の春は花見をしなきゃ、という若だんなの希望を聞き入れて、若だんなと兄やたち、妖たちは上野の広徳寺に花見に行くことになりました。いざ、花見に行くと、入口からすでに寺の前でお迎えを受け、さあ楽しむぞという一行の前に立ちはだかったのが若だんなを雛小町選びの選者にと望む文月屋でした。文月屋が去ったあとも、河童の大親分、禰々子が惚れ薬や怪我を治す薬など、怪しげな薬を若だんなにと持ってきて、たまたまそれを見かけた武家の安居が惚れ薬をほしいと近づいてきましたが、禰々子に顔を殴られてしまい、その場で怪我を治す河童の薬を試してひっくり返ってしまいました。「河童の秘薬」雛小町の選者になることを決めた若だんなのもとに、先日、河童の薬をあげた武家の妻、雪柳が訪れます。差し上げた河童の薬は、黄色のもので、かつて平安の時代に狐の娘が幸せになるために飲んだもの。薬効は定かではなく、差し上げる時にも「ご夫婦で話し合い、飲んでもよいと思われた時のみお飲み下さい」と伝えてあったものです。雪柳は黄色い薬を飲んだのに何も起こらなかった、納得がいかないと訴えにきたのでした。しかし、帰ろうとする雪柳が連れてきた子供が雪柳の子でなく、迷子らしいとわかり、若だんなたちと子供のことを気にした雪柳の迷子の親探しにのりだしました。

しゃばけシリーズ第十二弾・たぶんねこ (畠中 恵)

「跡取り三人」新年早々の商人の集まりで三人の商人の跡取り息子の一人としてお披露目されることになった若だんな。挨拶していくうちに大貞の親分に「跡取り息子三人が己の力で仕事を探し、稼げたら一つ頼みをきいてやる」ともちかけられ、真っ先に「やります、一番になった人には二つ願いをきいてほしい」と答えて大貞のもとに身を寄せて仕事探しと稼ぐことに取り組むこととなりました。三人は、なんとか仕事を見つけ少しずつ稼ぎ始めますが、いつものごとく寝込みそうな気配をおぼえはじめた若だんなが競い合いから降りると他の二人に告げたところ、「自分もやめようと思う」と競合相手の一人の小一郎も言い出して…「こいさがし」若だんなの母、おたえの知人の妹、於こんが長崎屋に花嫁修行の行儀見習いのためやってきました。ところが、この於こん、大層不器用な娘で何をやらせてもうまくいきません。家事を教えるおてつから逃げまわり、しまいには離れにやってきて若だんなに仲人で稼ぐための相談に来ていた富松に花嫁修行から逃げるために玉の輿を紹介してほしいと頼む始末。おてつに引きずられて台所に戻された於こんですが、諦めきれずに後日離れに行き、お見合いを段取りしてもらっているお志奈を見て自分にもお見合いを段取りしてほしいと言うのをまた断られて、ついには後見人代わりの姉夫婦に手紙を送って長崎屋に来させ、自分がお見合いできないならお見合いの場を見学させろと言いだします。その時点で訳あり縁談一組と見合いをする男と噂のあった茶屋娘、河童の大親分から頼まれた二股お見合いをする娘の縁談、それに周りにおかまいなしに自分の思うとおりに動きまわる於こんの乱入。果たして、お見合い、うまくいくのでしょうか?「くたびれ砂糖」若だんなの幼なじみ、栄吉は安野屋で菓子作りの修行に励んでいますが、最近店主と番頭たちが揃って腹下しで寝込んでしまい新米三人の面倒をみながら働いています。三人ともそれぞれに周りをふり回す困り者で、栄吉は参っていますが、そんな新米の一人の平太と長崎屋に砂糖を買いに行ったことから、もののはずみで鳴家たちを安野屋に連れ帰ってしまい、事態を重くみた若だんなと兄や二人で安野屋に鳴家たちを回収に行くことになりました。「みどりのたま」ある日、目がさめたら頭から血を流した状態で川に浮かんでいた男。はて、自分はいったい誰なのか。身につけていた物をたよりにじが何者かを探ろうとしている男の大事な紙入れを、通りすがりのすりがすってしまいました。いち早く気づいた男はすりを捕まえますが…「たぶんねこ」今日も妖たちの集まる長崎屋に、久しぶりに見越しの入道が若だんなに頼みがあると言って訪れます。同伴した幽霊の月丸が江戸の町で暮らしていけるか確かめるためにしばらく滞在するのでよろしく頼む、とのこと。月丸は入道の巾着に入っていましたが、巾着に興味を持った鳴家が触ってしまったことで口が開いてしまい、その場に居合わせた若だんなと鳴家が月丸に付き添い、江戸市中を散策することになります。

しゃばけシリーズ第十三弾・すえずえ(畠中 恵)

「栄吉の来年」幼なじみの栄吉がお見合いをしたと知った若だんな。栄吉に尋ねてみたがなんとも歯切れの悪い答えしか返ってきません。言いたくない訳の原因をつきとめてみようと妖たちに調べてもらい、わかったのは、相手の娘には意中の人がいるということでした。「寛朝の明日」妖退治で名高い僧、寛朝のいる広徳寺へ、天狗の六鬼坊からの贈り物の酒を持参した若だんなと兄や二人。そこに同席していた寛永寺の僧・寿真とともに酒をお相伴にあずかっていると、天狗の黒羽坊が現れました。寛朝に小田原の宿の外れにある小さな寺の僧二人を助けてくれと脅し半分で頼み込まれ、 妖の猫又と貘を同行して寛朝は小田原の寺に向けて旅立ちます。旅先からは妖の貘が夢を通じて若だんなに状況を伝えてきていましたが、ある日、妖たちのもとから寛朝がさらわれてしまいます。小田原にいる妖たちと夢の中でやりとりを続ける若だんなは、どうやって寛朝を救い出すのでしょうか?「おたえの、とこしえ」長崎屋の主、藤兵衛が上方に行って不在のところを見計らうかのように上方の相場師、赤酢屋が訪れました。藤兵衛とかわしたという証文をとりだし、藤兵衛さんは商いをしくじったので証文にあるとおり店を明け渡せと言うのです。にわかに降ってわいたような話を信じられないおたえに食い下がる赤酢屋。おたえと若だんなが手にした証文が偽物だと判断し、妖が悪さをして赤酢屋を追い払った後、おたえと若だんなは話し合って、若だんなが上方に行き、藤兵衛を探しに行き、おたえは江戸で妖たちとともに赤酢屋と対決することにしました。待つ間に妖のすすめもあり、あちこちの社寺に盛大なお供えをしてお参りを繰り返した結果、福の神たち、貧乏神、妖たちに助力いただけることとなりました。藤兵衛不在の長崎屋をおたえと若だんなはさてどうやって守るのでしょう。「仁吉と佐助の千年」長崎屋の若だんな、気がついた時には長屋の家主になっていました。しかも最近上方の相場で儲けたということから次々と縁談が舞い込むようになってしまい、今まで静かだった離れに、連日仲人が押しかけます。折悪く、妖たちを抑えておける兄やたちは二人ともそれぞれに用事があり留守が続いていたある日、離れを憩いの場にしていた妖は不満を募らせ、勝手に上がりこんできた仲人や縁談相手に悪さを始めてしまいます。「妖達の来月」いつものように寝込んでいる若だんなに代わり、兄やの仁吉から妖たちに若だんなの建てた一軒家に住む許可がおり、貧乏神の金次、猫又のおしろ、貘の場久の三人が引っ越しをすることになりました。引っ越しを終えて、必要なものを揃え、さあ騒ごうかというときに、買い揃えたもの、いただきもの全て室内から消えてしまっていたから、さあ大変。日限の親分に知らせが入り、知らせたくなかった長崎屋へも知られてしまいます。妖たちは、盗まれた品を少しずつ探してまわり、盗んだ犯人を新居におびき出すことを思いつきます。