日本産のノイズミュージックは世界的にも人気を博しているというのはあまり知られていません。
というのもそもそもノイズミュージック自体がニッチな音楽というのもあるのでしょうが、”Theノイズ”といった音楽で代表的なものが国外で少ないからではないかと私は思います。
私は音楽ジャンルの中でも取り分けアヴァンギャルドに分類される音楽を好んで収集していますが、ノイズだけにカテゴライズされる音源は意外に所持していません。そもそもノイズの定義は何か。という話ですが、どうやら”音楽用語的には楽器を用いないで作られた音楽”と定義されるらしいです。かなり曖昧ですよね。
つまり、ジャングルの中で自然の音を録音したフィールドレコーディング系のものもノイズだと言えるのです。
しかし、これをノイズと定義するよりはフィールドレコーディングに定義した方がわかりやすいので普通はフィールドレコーディングに分類することになるのです。

ノイズだけに区分される音楽は少ない

先ほど、少し説明しましたが、ノイズだけに適切に当てはまる音楽というのは全ノイズの中でも非常に珍しい位置にあると思います。
海外でノイズといって思い当たるミュージシャンはインダストリアルやパワーエレクトロニクスに分類した方が適切に当てはまることがほとんどだと感じます。
インダストリアルとは、その名の通り工場から出る音をサンプリングしたり、あるいは工場を思わせるような雰囲気やエッセンスを含んだ音楽のことを指します。ただ、インダストリアルメタルやインダストリアルロックなどのインダストリアルから派生した音楽ジャンルは初期の純粋なインダストリアルと聴き比べるとかなり違う印象を受けます。
インダストリアルの代表的なアーティストをいくつか挙げておくと、インダストリアルで最も有名と言っても過言でないスロッビンググリッスル。ストイックで単調ながら心地よいノイズを生み出すヴィヴェンザ。鬱々としたイメージをインダストリアルに植え付けたSPKなどがあります。個人的にはSPKがフェイバリットアーティストです。
また、パワーエレクトロニクスとは轟音で流れるノイズの中でまくし立てるようなマイクパフォーマンスが特徴的な音楽で、インダストリアルよりも純粋なノイズに近い音楽だと思います。このジャンルで活動してるアーティストは非常に少数だと言えます。代表的なアーティストとなるとやはりホワイトハウスです。もうパワエレの代名詞と言ってもいいくらい有名です。
さて、ではこれらに当てはまらず非音楽で音楽を表現すると何をモチーフにしたら良いのか考えると私なら途方に暮れてしまいます。
ノイズで表現できるモノの幅は狭いのです。

ノイズミュージックとアンビエント

ノイズで表現するモノはあまりないかもしれないと言いましたが、そもそも何かを表現する必要はないのかもしれません。純粋なノイズをただ聴けばいい、ただひたすら垂れ流されたノイズで何がいけないのか。ですがそれでは楽しくないかもしれないですね。
音を楽しめなくては音楽ではないです。
ですが音楽の懐は広く、ただひたすらに音を伸ばすだけの音楽も存在します。ドローンという音楽でざっくり言えば永遠と音を伸ばすだけの音楽です。顕著なものだと1時間以上もほぼ変化のない曲も珍しくはないのです。ですが、きちんとフォロワーも存在するしCDだって沢山出てます。
ドローンはアンビエントミュージックという音楽の中にあるサブジャンルです。
アンビエントミュージックとは、何か作業する時などに聞き流せるような音楽で、伸ばす音か多く、ボワーンとした空間的広がりのある音楽です。
ところで、音楽には必ず対になる音楽やムーブメントが存在すると言われています。
メジャーな音楽に対してのインディーズ。もっと具体的に例を出せば、ニューウェーブに対するノーウェーブといったところでしょうか。実はノイズの対になる音楽というのはこのアンビエントなんです。ついでに言うとアンビエントにはもう一つ対になる音楽があります。ニューエイジというのですが、アンビエントが作業中に聴き流す音楽なのに対し、ニューエイジは何か作業するときにBGMになる音楽のことを指します。どちらも音楽的な雰囲気は似ています。
話は逸れましたが純粋にノイズを楽しむ音楽ももちろんあって、暴力的なまでのノイズをそのまま聴く為の音楽”ハーシュノイズ”というのも少数ですが存在します。恐るべきノイズ。

日本のノイズ”ジャパノイズ”

日本産のノイズミュージックのことをとりわけジャパノイズと呼びます。この呼称は割とメジャーで少しマニアックなレコード屋さんに行くとジャパノイズでコーナーがまとめられていることもあるくらいです。
日本にはそれくらい”ノイズミュージシャン”通称”ノイジシャン”が数多く存在しているのです。
そのノイジシャンの中でもとりわけ重要なのが山塚アイ率いるボアダムスで、非常に独特な世界観を持つバンドです。彼らは海外でも有名で、ドラムを100台以上使うパフォーマンスは話題になりました。
ボアダムスに影響を受けた関西のアーティストをとりわけ関西ゼロ世代と呼んだりもします。
山塚アイはフリージャズのサックス奏者ジョン・ゾーンらと組んだバンド”ネイキッドシティ”や”UFO OR DIE”など様々なバンドで活動しています。
中でも特筆すべきはボアダムス結成前に参加していたノイズユニット”ハナタラシ”でしょうか。ハナタラシは非常に凶悪なユニットとして有名で、いくつものライブハウスで出入禁止を受けており、伝説的な逸話も多く残っています。
客席に板ガラスを投げつけたり、ライブハウスの壁をユンボで壊して登場したりと常識では考えられないエキセントリックなパフォーマンスが話題を呼びました。
そんな彼ら意外にもジャパノイズ系アーティストは多く、現在でも様々なアーティストとコラボする柔軟性がある”非常階段”。1度聞いたら忘れない名前の”ザ・ゲロゲリゲゲゲ”などが有名です。

日本のノイズの二大巨塔

いくつか日本の有名なノイジシャンを挙げましたが、最も重要な二人の人物を紹介したいと思います。
まずは、ジャパノイズの神と呼び声も高い”Merzbow(メルツバウ)”です。
メルツバウの作品の特徴は、そのほとんどが暴力的なまでに硬質なノイズであるということです。彼はシンセサイザーなどの機材に特殊なパッチを使ってノイズを奏で、冷たく計算された印象を受ける作品を生み続けています。
非常に多作家であり凄まじいまでの数のアルバムを発表しています。その中でも個人的にオススメなのがダークな雰囲気に包まれたアルバム”Music For Bondage Performance”です。
そしてメルツバウと肩を並べている偉大なノイジシャンがもう一人います。
黒に強い拘りを持つ”灰野敬二”です。彼は服装も全て黒に統一していてとても存在感があります。
彼の作風は先ほどのメルツバウとは反対に肉体的で即興的な印象を受けるノイズとなっています。
発表する作品もノイズのみならず、フリージャズやサイケデリックロックなどなかなかに幅があります。そんな灰野敬二の作品の中でオススメを挙げるとすればやはり”慈”でしょうか。哀愁のある雰囲気で、緊張感があります。CD音源で十分それらを感じるのですが、生で聴く・見る灰野敬二はとにかくとてつもないらしいです。機会があれば一度見てみたいものです。
また、メルツバウと灰野敬二が組んで”kikuri”というユニットで楽曲を発表したこともあります。メルツバウの冷静さ、灰野敬二の肉体的なアプローチが上手くまとまっていてとても素晴らしい作品となっています。ちなみに二人ともベジタリアンです。

まとめ

日本のノイズが世界でも一目置かれている理由としてはやはりノイズの表現者が多くまた優れたセンスを持っていることが挙げられると思います。元々日本人は西洋クラシックの雑音を許さないような正確な音楽を聴いていませんでした。楽器にフォーカスを当てると、日本古来の楽器というのは音の余韻を楽しむという側面を持っています。琵琶や尺八などイメージしてもらうとわかりやすいかと思いますが、メインになる音の他にも雑音がありその雑音が味として効果的に働くのです。
日本人のDNAにはこういった日本特有の楽器に見られる雑音の味を楽しむということが刷り込まれており、自然にノイズミュージックにも親しみが湧くのかもしれませんね。
長々と書きましたが、百聞は一聴に如かず、一度ノイズを聴いてみることをオススメします。