近年、従来とは質の異なる芸術性を持つ音楽が誕生していると感じます。
芸術としての音楽というとクラシックやその流れを汲む現代音楽を想像するかと思います。現代音楽というのも多義に渡って展開する分野であり、実験音楽やミュージックコンクレート、ミニマル、サウンドアートなど様々な芸術的な音楽を内包します。
視点をかえると、アヴァンギャルドを中心にノイズ、インダストリアル、フリージャズ、ノーウェーブ周辺の音楽もまた芸術的要素を持っている考えられます。
前者については作曲技法など、知識を前提にした音楽で、後者については野性味のある前衛的なものである傾向が高いと言えるでしょう。しかし、私は近年それらに属さず、特に音楽的教養の不要なライトな芸術性を持つ音楽が増加傾向にあると考えています。
現代音楽とポピュラー音楽との中間の音楽という表現が正しいかと思います。

現代におけるアートロック

ポピュラー音楽と芸術の接近というテーマで大衆音楽史を省みるとアートロックという分野に出会います。アートロックとは1960年代後半に現れた芸術性の高いロックで、”ヴェルベットアンダーグラウンド”や”ドアーズ”などが当時の代表的なアーティストです。
では、現在アートロックはどのような発展を遂げているかというと、オルタナティブロックやポストロック、シューゲイザー、ドリームポップに近い位置に存在するように思えます。オルタナティブ・ポストロックに関しては定義も曖昧で、多くの音楽を括れてしまう為、一先ず無視し、シューゲイザー・ドリームポップについてお話します。
当時のアートロックはサイケデリックに近い存在でした。そのサイケデリックがマッドチェスターを経てシューゲイザー・ドリームポップに変化していった為、元々サイケデリックに近かったアートロックは現在の位置にいるのではないでょうか。
イギリスの4ADというレーベルでは、シューゲイザーやドリームポップといったジャンルの音楽を多く取り扱っています。
特に、”Blonde Redhead”、”Deerhunter”からはそういった芸術性を感じ取ることができるでしょう。
また、同じくロック部門では、ハードコアパンクの一様式であるカオティックハードコアからもアートロックと同種の芸術性を感じ取ることができます。ヘビィメタルにおいてもブルータルデスメタルなど、このような芸術性を帯びたものが存在します。

コーンウォール一派の登場

ロックとは別に1990年頃からダンスミュージックにも芸術性を求める動きが顕著になり始めます。
ダンスミュージックからクラブミュージックがよりメジャーな呼び方になると、踊る為の音楽から聴くことに重きを置くポストレイヴへと分岐していきます。ポストレイヴの代表格にIDM(インテリジェントダンスミュージックの略)という音楽があります。これはクラシックの要素を曲中に取り入れたりすることもあり作り手に芸術的センスを要求するジャンルでもあります。しかし、現代音楽のそれとは比較にならぬ程聴き手に優しい音楽であり、それでいて芸術性の高い音楽のように思います。
そもそも、ダンスミュージックの前身を辿るとアーリーエレクトロニクス果てはテープ音楽にまで行き着くでしょう。テープ音楽に関しては実験性という面において現代音楽と重なりる分野でもあります。これはテープ音楽がテクノへと変化し、ダンスミュージックとの融合の後、さらに発展を遂げた結果、芸術面に回帰したということになります。
また、ポストレイヴ系には”Aphex Twin”という重要人物がいます。彼は一音一音に細かくエフェクトを加えたドランムンベースの発展ジャンル”ドリルンベース”をはじめアンビエントなど様々な音楽を扱います。その作品は他に類をみないような奇抜な作風でありながら高い芸術性を持ち世界的に評価されています。彼をはじめコーンウォール地方には”Squarepusher”や”μ-ziq”といった彼に近似した作風の音楽家達が存在したことから彼らをコーンウォール一派と呼びます。

エレクトロニカの進撃

テクノという音楽ジャンルを一度は耳にしたことがあると思います。”クラフトワーク”や日本の”YMO”に代表されるジャンルで、電子オルガンの発展が可能にした音楽と言えます。テクノも時として芸術と隣合わせの音楽でした。特筆すべきはクラウトロックと呼ばれるプログレを含んだ70年代のドイツの音楽です。実験性の高いバンドが多く、中でも”Ash Ra Tempel”の”New Age Of Earth”はシンプルながらも心地よい名盤です。実はテクノより前にクラウトロックが登場しているのですが、曲調も近く関わりもあるのでここではクラウトロックがテクノの一部と紹介させていただきました。
テクノはニューウェーブの時代に生まれます。そして、現在はエレクトロニカに形を変え発表され続けています。
近年そのエレクトロニカの作品傾向が芸術性を帯びてきたように思います。
先ほどの英国コーンウォール一派の音楽もエレクトロニカにも括ることができます。
そして日本のエレクトロニカにも芸術性を存分に含んだものが多数現れました。
”Serph”や”Lupeux”、”Matryoshka”などがそれに該当するでしょう。これらのアーティストの音楽性はエレクトロニカと同時にポストロックにも似た要素を感じます。
”Serph”と”Lupeux”はともにエレガントディイスクというレーベル出身で、クラブジャズと括られる場合もあるようです。
また、日本のエレクトロニカを語る上で”world’s end girlfriend”の存在を避けては通れません。

Virgin Babylon Records

”world’s end girlfriend”とは前田勝彦のソロユニットで、ポストロックやエレクトロニカ、現代音楽風のものまで様々な音楽を生み出しますが、そのどれもが既存の音楽と異質な魅力を持っています。また、映画音楽を担当することもあります。
先述した”Aphex Twin”と比較されることも多いようです。
彼の音楽はまさに先ほどまで説明してきた聴き手に知識を求めない純粋な音楽の芸術性を存分に含んだアーティストだと思います。
そして、彼だけでなく彼が2010年7月に設立した『Virgin Babylon Records』というレーベルからも多数の同種の芸術的傾向を備えたアーティストを輩出しました。
またそれに関わりの深いバンドに”Vampillia”という音楽アート集団があります。”Vampillia”は関西を拠点に活動しており、バンドの形態を取っているのですがメンバーの入れ替わりが多く、また多くのアーティストとのコラボレーションを行っています。一例をあげると、戸川純、ツジコノリコ、Nadja、コーンウォール一派のμ-zipも共同製作を行っています。
さらにドラムには日本プログレ界の重要人物”吉田達也”が担当しています。
彼らの音楽はバイオリンやピアノなど伝統的な楽器を使用する一方で、ノイジーなエレキギターに激しいドラムを加えたりと、とても既存の音楽では形容し難い部分があります。また、ボーカルもオペラ調のものやデスメタルのガテラルが混声されておりかなり異質な構成をしています。
実験性・芸術性において彼らの音楽は最先端のロックを奏でていると言えるでしょう。

まとめ

ここで紹介した新時代の音楽に何らかの共通点があるのは自明ですが、それは実際に聴いてみねばわからないニュアンスもあります。音楽を文書で説明することは困難且つ不粋なことだと思います。もし、現在のアート色の強い音楽に興味を持っていただけたならぜひ試聴することをお勧めいたします。
また、これらの楽曲・アーティスト群を形容する新しい概念や音楽ジャンルが生まれる可能性があります。余談となりますが、新しい音楽ジャンルの誕生は音楽雑誌の記事であったり、アーティスト自身やそのファンの発言を発端とする場合が多いように感じます。
また前半に書いたシューゲイザーやドリームポップなどの音楽は時代が進むに連れ、エレクトロニカに接近したものが増えています。
そして、エレクトロニカもアート面に重きを置くものが増えました。
アートロニカという呼称も産声をあげつつあります。エレクトロニカ=芸術が結び付く時代も近いかもしれません。