“幸福”とは、一体何だろう。

ずっと欲しかった物を、働いて貯めた自分のお金で買える事だろうか。

美味しい物をお腹いっぱいに食べる事だろうか。

自分の好きな趣味に没頭できたり、一人旅で行ってみたかった場所に行ける事だろうか。

それとも、大切な人とずっと一緒にいられる事なんだろうか。

山田洋次監督の映画『学校』シリーズ。

第一作目となる、1993年に劇場公開された『学校』は、実在した学校や人物などをモデルにしたという、様々な生徒が通う夜間中学での日々を描いた作品。

出演陣は、教師の黒井役の西田敏行を始め、萩原聖人や裕木奈江、竹下景子、田中邦衛など、豪華な顔触れ。

1人の生徒の死を受けて、卒業を控えた生徒たちが、“幸福”とは何かを、先生と一緒に考えます。

生徒たちの苦悩の日々

とある学校の夜間中学は、事情があって高校を中退した人や、外国人など、様々な生徒と教師が在籍。

ある日、黒井先生は校長に呼び出され、異動を勧められるも、「この学校の“古狸”でいたいんです」と、キッパリと断ります。

教室に入り、出席を取る黒井先生。クラスの生徒には、韓国人や中国人、不良娘など。

先生は、病気で療養しているイノさんという生徒から届いた葉書を読み、卒業式には参加すると伝えると、クラスは喜びに沸きます。

この日の授業は、卒業を控えるにあたり、今後の目標など、テーマを自由に作文を書くというもの。

生徒たちは配られた原稿用紙に思い思いに書き始め、今までの学校での生活や思い出、勉強で苦悩した日々などを思い巡らせるのでした。

女手1つで子供を育て、焼肉店を経営している韓国人女性・オモニは、漢字が上手く書けず、“自分は馬鹿だからできないんだ”と泣く毎日。

黒井先生は“全然馬鹿じゃないよ”と何とか宥め、励ましながら漢字の書き方を教えていたのでした。

自分の非行で高校を中退し、夜間中学に通うようになった不良娘のみどりは、ある夜、他の不良男たちとグルになっていたところを黒井先生に見つかり、自宅に保護されます。

食事などの世話をされるも、みどりは黒井先生が言った事に反発。“私はどうせ死ぬんだ”と飛び出してしまいます。

みどりを心配していた黒井先生は、翌日学校に来ている彼女を怒るにも怒れず、やれやれとため息。みどりは、“将来美容師になったら先生の髪カットしてあげる”と、黒井先生の薄い髪を櫛で梳かすのでした。

働きながら学ぶ事の大変さ。そして、身分の違いに反発

働きながら夜間中学に通う和夫は、授業中に眠気覚ましのガムを噛んでいたところを注意された事に反発し、“俺は重労働なんだぞ。1度俺の仕事やってみろ”と先生に言い出します。

和夫がやっている清掃業を体験した黒井先生は、あまりの重労働に疲れ、これでこの後学校に行くのは辛いと、改めて感じたのでした。

不平不満が多く協調性がないと、働いていた工場を辞めさせられた中国人の男性・チャン。

女の田島先生の世話で、別のとある工場へと面接に行く事に。

ところが、賃金が安い事に文句をつけ、工場長を怒らせて断られてしまいます。

田島先生にきつい言葉で叱られたチャンは、感情を剥き出しにして、“私は悪くない!日本人が悪いんだ!”と、日本人への不満などを思うまま吐き出してしまい、田島先生を泣かせてしまうのでした。

通っていた高校が馴染めず、不登校になってしまった江利子は、雑誌で知ったという夜間中学に通う事に。

面接の際、一緒にいた母親は“勉強できる子なんですよ”とペラペラ話し、黒井先生を呆れさせます。

生真面目で可愛い江利子に好意を抱き、ニヤニヤと近寄る和夫。江利子も始めは相手にはしなかったものの、作文に“和夫さんの事書いてるの”と言って照れさせる程に打ち解けていきました。

みどりや修とドライブに行った帰り、2人きりになった車の中で和夫に迫られ、驚きのあまり抵抗できず、泣き出してしまう江利子。

家で、両親が口論しているのを耳にした江利子は、黒井先生に今後の進路を聞かれた際に、両親が離婚する事を明かすのでした。

変わり者イノさんは苦労人

休憩時間、学校に悲報が。

卒業式出席を心待ちにしていたイノさんが、急に亡くなったのです。

黒井先生は英語担当の田島先生に頼み、次の授業を急遽ホームルームに変更。みどりや和夫たちに、イノさんが亡くなった事を知らせたのでした。

ずっと一緒に勉強して楽しい日々を過ごしてきたイノさんの急死に、クラスは哀しみに包まれます。

黒井先生は、イノさんの思い出話を長々と生徒たちに語るのでした。

子供の頃から苦労を重ね、学校にも行けなかったイノさんは、事故で亡くした母親から“勉強しなさい”と日々言われ続けてきたそう。

そこで、たまたま献血車のバイトしていた医学生に“字を習いたいからどっかいい学校知らないか?”と聞き、イノさんはその医学生と、酒に酔った状態で夜間中学に面接。

イノさんは競馬好きで、授業で簡単な片仮名の“ミルク”を黒板に書けと言っても書けないと拒むのに、長い片仮名の競走馬の名前はスラスラと書いて、先生や生徒を呆れさせたり、計算練習で書いた数字を“ゾロ目”と見てしまったりと、自由気まま。

そんなイノさんは、美人な田島先生に惚れてしまい、国語の宿題で田島先生へのラブレターを葉書に書き、送るのです。

それを受け取った田島先生は、困った様子で黒井先生に葉書を見せます。黒井先生は“困ったもんだ”と笑い、イノさんを説得する事に。

オモニの店で酒に酔ったイノさんは、これに激高。黒井先生に噛み付くイノさんに、聞いていたオモニも激怒。

翌日、すっかり酔いが覚め、記憶も定かではない中、黒井先生に酷い事言ったと反省するイノさん。しかしその身体は、既に病魔に蝕まれていたのでした。

みんなが考える“幸福”とは

イノさんの死に、すすり泣く生徒たち。

一番仲が良くて、競馬にも連れてってもらっていた修は、ボロボロ泣きながら“修学旅行でお揃いの靴を買ってもらった”と言います。

修学旅行でのイノさんはいい顔して楽しそうだった、幸せそうだった。

オモニがそう言うと、和夫は反発。

字が書けるようになって、計算もできるようになって、それだけで喜んだイノさんは本当に“幸せ”だったのか。修学旅行に行けただけでイノさんは“幸せ”に思えたのか。

生徒たちがこれに反論し合っていると、江利子が“【幸福】って何だろう”と黒井先生に問いかけます。

それぞれに考えて討論するも、思い悩む生徒たち。

そこでみどりは、自分の過去を話します。

かつて高校生だった頃、警察沙汰になって鑑別所に入れられ、出所したところで先生に“更生しろ”とからかわれて反発。灰皿を投げて職員室のガラスを割り、学校を飛び出したと言います。

その後非行を働き、シンナーに溺れてやつれていたところに、黒井先生が酒臭い息で近づき、夜間中学に勧められたと言います。

みどりはその時、“ボロボロだった私も、これでやっと幸せになれるんだ”と感じたそう。

お金は手に入っても、使ってしまったらすぐになくなるもの。“幸福”というのはそういうものじゃないと、みどりや江利子は諭します。

そして、こうしてみんなで勉強する事で、“幸福”とはどういうものなのかが分かるのではないかと、江利子の言葉に生徒たち同様、黒井先生も納得。

今回のホームルームで、進路に悩んでいた江利子は、大学の教育学部に進む事を決意。先生になって、この夜間中学に戻りたいと、黒井先生に誓うのでした。

まとめ

人は誰でも、幸せでありたいと願うもの。不幸になりたい人なんて、誰もいません。

子供の頃から裕福に過ごしてきた人もいれば、貧しい家庭で沢山の悩みや苦難を抱えながら生きてきた人もいます。

いい成績でいい大学を卒業した人でも、進路で悩み、見えない壁にぶち当たるのです。

挫折や葛藤を繰り返し、苦しいけど、何とかそれを乗り越えた人こそ、成功に導かれ、やがて“幸福”を手に入れるチャンスが訪れるはず。

それが今日とか明日とかじゃなく、まだまだ遠い先の事だとしても、人は誰でも必ずや“幸福”になれるのです。

そしてその時、“幸福”とはどういうものなのか、答えが見つかるはずです。

あなたにとって、“幸福”とは、一体何だと考えるのでしょうか?